林道に響く音
とある田舎の林道。
林とアスファルトの道路に日差しが差し込んでいた。
林道には陽気な音楽が爆音で垂れ流されていた。
道路の真ん中には若者が一人、音楽に合わせて縦に揺れていた。
中年の通行人が通りかかったとき。若者は目を輝かせた。そして音楽に乗せて中年を罵り始めるのだった。
「へい、だせぇおっさん、俺は19年、ラップは熟練、熟練したヤバいスキルでお前圧倒、は、所詮お前ただのおっさん、時代遅れの横揺れ音痴、そもそも、お前全然揺れてねぇ、ビートに全然乗れてねぇぜ、そんなお前にゃ希望もなけりゃ、明日もねぇぜ」
罵られた中年は立ち止まって、いちおう目を合わせる感じで佇んでいるだけで黙っていた。
中年の態度が気に食わない若者は苛立った様子でさらに罵った。
「おーい、俺のフローに、お前ブローって感じか。とうとう俺のヤバさでお前黙殺しちまったようだ、へい、スキルのないお前は無用、ただ立って、加齢臭に巻かれて、俺のスキルにただ呆然、俺のフロウに巻かれてねぇで、そろそろ、ぶっ殺す覚悟でお前のヤバさを聴かせてくれや」
すると中年男性は「オーケー」と言ってニヤリと笑うと同時に恐ろしく速い動作で背中から鈍く輝く棒状のものを取り出して若者の顔面に向けて静止した。その動きは不気味なほどに最適化され、洗練されていた。
何かを向けられた若者は、縦揺れを忘れ、歌うのを止めた。そして不思議そうな顔をして突っ立っていたが、再び縦揺れを始めると同時に、ズドンッ、と音が辺り一面に響き渡った。辺りがシーンとなると、さきほどまで若者だったと肉塊が空から勢いよく落ちてべチャリと音を立てた。
中年は発砲後も銃を構え続けて呟いた。
「すまん、ついマジになっちまったよ」
若者だった塊から返事はなかった。
中年は、肉塊に向ってもう一度、ズドンと発砲すると安心した様子になり、ようやく構えを解いた。
「馬鹿だよな、俺もお前も」
肉塊を憐れむように見つめてから、中年の男は去っていった。
林道には相変わらず陽気な音楽が流れていた。