ネットでテキスト読む生き物

はてなインターネット文学賞「わたしとインターネット」

ネットでテキスト読む生き物

国道沿いの小屋に住む。

ネットでテキスト読む生き物、ぬらぬら。

ブログ読む習性のある日、日記が綴られたブログにアクセスしようとするとブラウザに表示されたのは「404エラー(Not Found)」の文字だった。二年間、親しんできたブログから突然別れを告げられたような錯覚を受けた後、喪失感を抱く。ネットから消えたテキストがまたいつか読めるとは到底思えなかった。納得する間もなく肺は窮屈になって心臓鼓動増す。身体は小刻みにヴヴヴと机上で振動して滑って落っこちた。

下層のフロアには、「上手に呼吸できない」と呟きながら床の上で両手両足をバタつかせ、跳ね回る生物がいた。布団に飛び込んでからは身体から粘液を垂れ流し、撒き散らしながらヌメリを帯びて、くすんだ赤い色のタコへと変貌する。タコは四本の手足を滑らかに動かし、半身になって忍者のように泳いで見せたりもした。

(フローリングの)海を漂うタコは悩んでいた。ネットに見せられた夢幻には決して届かぬ歯がゆさと。コンテンツは海中のプランクトンの如く表れては消えていく様。消えてから気づく儚さと惜しいな、と思ってしまうタコの虚無が、ことさら明らかになっていく。真空が鎌鼬を呼び寄せるように、タコは不意に内に真空を感じた突如、鋭い刃物を携えた虚しさに切り刻まれたかのような痛みが頭に走る。鋭い鈍痛に真顔で耐える術など知らず。タコは北斎の描いた春画の蛸になった。インターネットが存在しない時代の蛸になることで全てを忘れようとし始める。懸命に阿呆を務めることによって、阿呆になって疑問符を繰り返し、空白を埋めていく。

「あれ?あれゝ、あれれゝ、あれーれーれゝ?」

昼過ぎになると、何に悩んでいたのか忘れて飄々としているタコがいた。しかしながら、ネットに接続しようとすると違和感を覚えるのだった。違和感の正体を有耶無耶にするための疑問符が「なんで?なんでなんで?」とやってくると。ふと、ようやくブックマーク先のブログが閉鎖したことを思い出した。

タコはお餅のように固くなった身体で、桜はとうに散った後の風景を窓越しに見つめていた。道路を走る車がどこに向かっているかなんて知ろうとはしなくとも、繁忙期の引っ越し業者のトラックが目に留まった。トラックは淡々と、慌ただしい日常と誰かの新天地へと向かっていった。トラック後方、巻き上げられた砂埃と排気ガスが漂って消えていく様。不意に春風刺してくる。

輝度ガンガンの夕暮れ。キツめな日差しとエアコンの風が吹き荒れる部屋の中。タコは持ち味の粘性を失うも、二足で自立する形へと変性し、太陽に向かって一心不乱に踊りだす。踊ることによって身体と感情は熱を帯びると,別れを知ったとしても、ネットに初めて出会った頃のような熱狂の色を取り戻すことができた。それでも行き場を失ったまま。ベーコンがカリカリになっていくような感覚を覚えたまま。――繰り返し接続し、もう見れぬ儚さに後悔を引きずったまま身を焦がす様。ネットのただのテキストたった今去った様。その生き物淡々と、タンタタンと消えていった。