シャー、シャー
彫刻講習会が開催されるアトリエ。
室内では、参加者たちが思い思いに鉛筆を走らせている。その音がスケートリンクのように響く。
僕はというと、鉛筆で正確無比に能面を描いて先生に手渡す手筈になっていた。
僕は手筈通りに紙を手渡す。すると先生はなぜかムッとした顔をした。
なぜだろう。僕の描いた絵が歪んでいるはずがない。それを否定するかのように、先生は無言の圧力を発生させる。
ズシンッ
衝撃波よって僕は部屋の隅まで弾き飛ばされていた。そのまま壁に激突、なんとか静止。
グハッ
血を吐きながらよろよろと立ち上がり、余裕であるかのように笑ってみせる。不意打ちなど、想定していなかった。それゆえにダメージは深刻だった。窮地にも関わらず、目は一層輝かせる。まるで、その目には情熱が宿っているかのように。
そう、これは能面をめぐる冒険の記録である。
どりゃーっ!!
僕は、これでもかと線を引く。ペンタッチは、さらに正確無比に、さらにアーティスティックに、紙に、能面を、よりいっそうと描き殴る。
やってやるぜ!
そう言って、燃える。
午前中は、元気に。
午後は・・・
これは能面をめぐる冒険。
こんなところで終われない。終わってたまるか。
なぜなら、僕の能面をめぐる冒険はまだ始まったばかりだから。