カード占いのやられ方

カード占いのやられ方

ドリンクサーバーから流れる煎茶をじーっと見つめていた時、先輩に声をかけられる。

「ちょっと付き合って欲しいだけど」

ボロボロの本と変わった絵柄のカードを持った先輩がいた。

「タロットで君の運勢がわかる。占いの結果は2年以内に実現するんだ」

興奮気味に語る先輩は不気味だった。食堂の机で対面すると先輩の圧がさらに増す。間近で見るタロットカードの迫力に呑まれそうになった。真剣な表情で大きめのタロットをぎこちなくシャッフルする先輩を見ていると、真面目に占いを受けてみようという気になる。

伏せられた山札から一枚づつ引き抜いていくように言われた。選んだカードに自分の運命が託されているかのような緊張感ーー呪術を狂乱気味に語る先輩,カードを大事そうに触る仕草,大げさで、全身全霊で、まるで占い師みたいだーーカードは十字の形で配置されてからは、1枚めくられるたび、絵(アルカナ)の意味を教えてもらえる。

○アルカナの正位置の意味
1枚目 正位置「魔術師」(正位置:機会)
2枚目 正位置「節制」(正位置:調和)
3枚目 正位置「星」(正位置:希望)
4枚目 正位置「愚者」(正位置:自由)

配置にも意味があり、1枚目は現状、2枚目は問題、3枚目は傾向、4枚目は対応、5枚目は結果を指している。意味をつなげて自分でも占ってみるように勧められる。

「チャンスに満ちていて、人間関係が問題、この先に希望があって、自由になるのが吉。みたいな感じですか?」

「そうそう、それでいい」

それだけ言って、最後のカードをめくってしまう。

5枚目 逆位置「塔」(正位置:破滅 逆位置:破滅)

「ごめん、5枚目が『塔』の人はまだ占ったことがないんだ」

「塔」のカードにひたすらに動揺する先輩にしつこく尋ね続けると「5枚目が逆位置の『塔』の場合、すべて逆位置で占う方法で一応、占える」とだけ漏らす。以降は、「難しくて占えない」、「塔はよくわからない」を繰り返すだけなので先輩に手伝ってもらいながら、再び、占いをやらされる流れに。

○アルカナの逆位置の意味
1枚目 正位置「魔術師」(逆位置:逸脱)
2枚目 正位置「節制」(逆位置:生活の乱れ)
3枚目 正位置「星」(逆位置:無気力)
4枚目 正位置「愚者」(逆位置:散漫さ)
5枚目 逆位置「塔」(逆位置:破滅)
占い方:逆位置の意味を配置の順につなげて占う

○占いの結果
「怠慢と怠惰は、生活の乱れと散漫さが問題となっている。もはや手遅れで、2年以内に破綻する」

これが運命なのか尋ねると、先輩は「うん、まぁ、そう」と言ってくれた。

机の上のタロットがなくなったことに気づく頃には、先輩は喫煙所の方へ消えていた。

先輩はなにがしたかったんだろう。

乱れていると塔が崩れるような事が起きる。という啓示を与えたかったのだろうか。

先輩なりにタロットで「生活や振る舞いを見直した方がいい」と伝えてくれたんだとも思う。

今となってはタロットの結果に納得するしかないんだ。